ラピッドトリガー付ゲーミングキーボードの遅延に関する考察(2025.01)
キーボードの性能差を議論するにあたり、要素を分解してみると「入力遅延」「PCB遅延」「送信遅延」のおおよそ3要素となります。
さらにキーボード関係なく、ゲームに反映されるまでに発生する差として、PC性能によって決まる「処理速度」「フレーム生成遅延」、ディスプレイ性能によって決まる「表示遅延」があります。(ネットワーク遅延も状況によっては非常に影響が大きいのですが、自分が入力した内容に対し、自キャラが動いて、それを自分のモニタで視認できるまで、という基準であればネットワーク遅延は関係ありません)

入力操作遅延
人間がキーボードのキーを押し始めてから、反応する深さに達するまでにかかる時間のこと。
キーボードが反応する深さ(アクチュエーションポイント、通称AP)が浅ければ浅いほど、人間が押し始めてから反応するまでにかかる時間は少なくなるので、より人間の操作に素早く反応するゲーミングキーボードとなる。
ラピッドトリガー機能がついた最近のキーボードは、2022年以前に主流だったメカニカルスイッチのキーボードが1.5㎜押すと反応していたのに対し、wootingなどで「約0.1㎜」押せば反応するようになった。
では、実際にアクチュエーションポイントが変わると、どれくらい入力遅延が減って、人間操作に素早く反応してくれるのだろうか。
仮に指の押下速度を100㎜/s、加速度を200m/s^2とした場合(※雑な仮定なので参考程度)、1.5㎜を押し込むのにかかる時間は約3.9msなのに対し、0.1㎜の押下に約1ms、0.01㎜で0.3msの試算となる。
一般的なキーボードと、ラピッドトリガー対応のアクチュエーションポイント0.1㎜のキーボードには、ヨーイドンでスイッチを押し始めると約2.9msの差が付くのだ。つまりラピトリキーボードの方が2.9ms「早い」です。
1フレーム(1/60秒)が約16.7msですから、フレーム換算すると約0.17フレーム。あくまでガバ試算ですが…明確に人間が感知できる差かといわれるとちょっと微妙かなという気はします。
ただし、これにはさらに「デッドゾーン(反応しない区間)」が加わり、実際にはもう少し差が開きます。デッドゾーンの量はメーカーは基本的に公表していないため、実際にその製品を計測しないとわかりません。測定方法は「マイクロメーター」を使用するのが一般的ですが、レビュアーのように大量にキーボードを所持している人間がひたすら計測するしか情報が無いのが正直なところです。※私も計測していますので、参考にしていただければ幸いです。
※AP(アクチュエーションポイント)/RT(ラピッドトリガー設定値)について
HMのように高性能キーボードでも「ゼロ状態からの入力」は誤入力防止のため保護機能があり、APは強制的に0.1㎜以上になることが多い。また、底打ち時の意図しない入力OFF(入力漏れ)を防止するためにデッドゾーンを設定することが推奨されている(底打ち時のデッドゾーンはボトムデッドゾーンと呼ばれる)
PCB遅延
センサー性能、MCU能力(マイコンとも呼ばれる重要パーツ、キーボードの処理を担当している頭脳部分、パソコンでいうCPU)によって決まります。この数値は基本的にメーカーから公表されません。「MMStudio Magtester」と呼ばれる測定装置を使用することで計測可能です。
RT性能0.01㎜!のような高性能(敏感な反応)をアピールしていても、実際にその処理をつかさどるコントローラーがポンコツだと、結局PCに信号をおくるのにモタつくから意味ねーじゃん…くらいの感覚でオッケーです。
例えば、ラピッドトリガーの性能差(入力遅延)で3ms早い!となっても、PCBでの遅延差が3msあったら、せっかくラピッドトリガーがいくら敏感でも、MCU性能差でトントンになってしまうわけです。
データ送信遅延
処理が終わってから、PCにUSBケーブルで送信するのにかかる時間のこと。ポーリングレートと呼ばれる性能によって決まります。
いざ「処理完了!いつでも信号送れます!」となっても、信号を送る頻度が少ないとその分到着が遅れるという感じですね。一般的なゲーミングキーボードの「1000Hz」なら最大で1ms、最近の高性能キーボードでよくある「8000Hz」なら最大で0.125msの遅延となり、ここでも少し差がつきます(理論上は)
ちなみに、MMstudio Magtester で計測できる遅延はPCB遅延と送信遅延の合計です(たぶん)
※スキャンレートはキーボードの入力信号を検知する頻度、ポーリングレートはデータが接続先のPCに送信される頻度。1000Hzなら最大で1ms、8000Hzなら最大で0.125msの遅延が発生するので、ポーリングレート8000Hzだから遅延が少ないよ!というのは嘘ではないのだが、実際にはPCBでの処理遅延があるため、本当の遅延は計測しないとわからないのである…